新型は旧型と比べて、どんな車なんだろう。
たしかに現行モデルにもハンドリングの違いはあった。しかし、それ以上に普通に直進しているときにも、コレ何か違うよね。というくらいにスタビリティの差があったようだ。
86は、そこそこの腕のある人つなら、誰でもドリフトが楽しめるクルマ」というフレーズを思い出す。ステアリングを切り込めばリアが流れ出す。そのことを予知させるような直進時のリアの軽さを感じさせた。
対してBRZはそこまでリアの軽さを感じさせなかった。明らかに86のほうが突き進んでいたし、極めようとする姿勢が伺えたのだ。今回86にはGRの前置詞が付いた。これが意味することも興味深い。
まず、現行モデルから新型になって何が変わったのか? 以下が両車に共通する変更点だ
・ボディをインナーフレーム構造に変更
・エンジンは2.4Lに排気量を拡大
・ファイナルギアをMT=4.300→4.100/AT=4.100→3.909に変更
・ルーフをアルミ製に変更(-2.0kg)
・「S」グレードのタイヤ(215/40R18)がミシュラン・パイロットスポーツ4に変更(従来はSTIを除き「プライマシー4」で17インチ)。「R」グレードはこれまでどおり「プライマシー4」(215/45R17)を採用
というのが大まかなところ。
そして、今回のお題であるBRZとGR86は何が違うのか? これがまた細部にわたって異なるのだ!
【新型GR 86/BRZの差別化点】
・エンジンの制御マネージメント
アクセルの踏み込み量に対してスロットルがGR86は“早開き”でBRZは“リニア”に開く。
・フロント/リア バネ定数
GR 86→28/39 N/mm
BRZ→30/35 N/mm
ダンパーの減衰もそれぞれの特性に合わせて変更(ショウワ製)。GR 86のほうが全体的に減衰力高め。
・フロントスタビライザー
GR86→中実18.0mmφ
BRZ→中空18.3mmφ
・フロントハウジング(ナックル)
GR86→鋳鉄製(現行モデルと同じ)
BRZ→アルミ製(-1.5kg)
・リアスタビライザー
GR86→15.0mmφ
BRZ→14.0mmφ
・リアスタビライザー取り付け構造
GR86→サブフレームにブラケット取り付け
BRZ→ボディーに直付け
・リアトレーリングアームブッシュ
GR86→従来品を採用
BRZ→硬度アップ
・EPS(電動パワーステアリング)アシストトルク定数
それぞれのセットを採用
・GR86はハイμのブレーキパッドをフロントに採用。BRZは選択そのものがない。
ざっとこのようなところである。
走り出し気づくのは加速感の向上。これはBRZも共通のエンジンだが、BRZ試乗後にわかったことはGR 86のほうがアクセルチョイ踏み状態からすぐにパンチのある加速が始まるそうだ。
これによってエンジンのレスポンスが軽く感じ、これは完全に好みの問題ではあるが、このあと走り込むにつれてGR 86のセットの方向性とこのエンジン特性がマッチしていると理解できるのだ。
GR 86はブレーキングでノーズダイブがハッキリと起こる。BRZは少なめだ。前記したバネ定数を見ればGR86→28/39 N/mm:BRZ→30/35 N/mmと明らかにBRZのフロントが硬く、逆にリアはGR86のほうが硬いのだ。
そして、コーナー進入でステアリングを切り始めるとフロントのロールがGR 86では大きくなる。リアが硬いので対角線上の荷重移動がGR 86では大きく起こる。ステアリングフィールがしっかりしているのはナックルが現行モデル踏襲の鋳鉄製だからか?
この特性によってフロントに対してリアが軽く感じステアリングの舵角も小さい。これは小舵角でのコーナリングを目指すレーサー好みである。
しかし、ある意味万人受けとは言い難い。今回トヨタ 86からGR 86というレーシングカンパニーの扱いになったことがよく理解できるハンドリングだ。パワーも上がったことでドリフトもよりスムーズにできるようになった。
ドリフトにせよグリップ走行にせよ、コーナリング初期でのクイックステアリングで簡単に向きを変えやすくなっていて、オーバーシュートさせてもコントロールしやすいリアの安定性が与えられているからだ。
ESC(横滑り防止装置)のトラックモードも介入しすぎないレベルでテールスライドを楽しむことができる。
これに対してBRZはかなり性格が異なる。3速ギアで抜ける左中速コーナー。直前で130km/hまで加速し軽いブレーキングからステアリングを切り飛び込んでゆく。この時すでに心理面で両車に差が出る。BRZには安心感がありGR86には緊張感がある。
リアのスタビライザーはGR86→15.0mmφ:BRZ→14.0mmφ。ボディー直付けとこれまで通りのサブフレーム付けの違いはわかりません。ただし、ステアリングを切り込んでもリアに荷重が残っているのを感じるという。
フロントは初期のロールから大きくノーズを沈めることはなく適度なロール角でコーナリングを始める。コーナリング中にリアのスタビリティを強く感じるので、気持ち的に高い速度でコーナーにアプローチできる。そしてコーナリング速度も高い。
かといってアンダーステアでもなく、フロントがグリップしているから意図してパワーオーバーに持ち込んでもリアのスライドは穏やかだ。もちろん、ステアリングアクションとアクセルの踏み込み量でドリフトに持ち込むことも可能。スロットルの早開きはしないからそれなりにアクセル開度は大きくなる。
実はアクセルのコントロール性では初期にトルク感が立ち上がるGR 86のほうが容易だった。ただしウェット路面だとBRZだろう。
GR86のハンドリングは操舵初期に集中している。ここで一気にコーナリングの姿勢を作るのが容易。コーナリングの初期にどうコーナリングするかを決める。
つまり、早くアクセルを踏み込んでコーナーの脱出速度を上げることにフォーカスしているように感じる。現役レーサーも開発に加わったというが、はっきりとそのことを感じる。
BRZはGR 86ほど特化していない。どちらかというと万人受け、間口を広げたハンドリングだ。
新型はこの現行「S」グレード比でフロントのバネレートが硬く、ボディ剛性がかなりアップしているのでコーナリングは速い。現行モデル比でアップグレードしながらよりスパルタンなスポーツに進化している。
そしてコーナリング速度を上げながらもコーナリングの全域でコントロール性を重視したセッティングになっている。
さてMTとATの違いについても記そう。大きな違いはギア比によるものだが、GR 86のスロットル早開きはATでは行わずBRZと同じだ。
やはりMTのほうが加速力はある。ただし、MTは(試乗をおこなった袖ケ浦フォレストレースウェイの)2コーナーのAペックスで7500rpm回りコーナリングしながら4速にシフトアップする。ここでシフトラグとリアが滑りやすくなりロスをする。
ATは3速でそのままクリアするのでロスなく、結局裏ストレートエンドでの最高速はほとんど変わらない。新型になってエンジンパワーがアップしたことで、これまでにないATのスポーツ性が増したと感じるのだ。
ATモデルにはアイサイトも装着される(MTは遅れて装着予定)。ハイテン鋼の採用など安全面でも進化したBRZとGR 86。ドライブすることの楽しさをまだまだ教えてくれそうだ。